犬の尿管結石をご存知でしょうか。
腎臓から膀胱へとつながる細い管(尿管)に結石が詰まる疾患で、尿の流れが遮断されると急速に腎機能が低下し、数日で腎不全に至る可能性があります。膀胱結石と比較して発生頻度は低いものの、閉塞の位置と程度によって命に関わる緊急度が格段に高い点が特徴です。
本記事では、犬の尿管結石が発症するメカニズムから、頻尿・血尿・腹痛・元気消失といった症状のサイン、画像診断による検出方法、外科的治療・インターベンション治療の選択肢、そして食事管理による再発防止までを詳しく解説します。
犬の尿管結石の受診の目安
- すぐに受診夜間・休日でも
- おしっこがほとんど出ない・意識がおかしい・けいれん(両側の閉塞。12〜24時間以内に)
- 早めに受診
- 腰や背中を痛がる、嘔吐・食欲がないとき
- 治療と見通し
- 詰まった結石を緊急に取り除いて腎臓を守る。再発しやすいため処方食と定期的な尿検査を続ける
迷ったときは 受診の目安とチェックリスト も確認してください。
1. 犬の尿管結石の概要:細い管に石が詰まる緊急性の高い疾患
尿管結石(にょうかんけっせき)は、腎盂(じんう:腎臓内の尿を集める部位)から膀胱へと続く尿管の内腔に結石が存在する状態を指します。英語では Ureterolithiasis(ユリーテロライシアシス)と表記されます。
尿管は直径1〜3mm程度の非常に細い管です。この細い管に結石が嵌頓(かんとん:はまり込んで動けなくなること)すると、上流側の尿管・腎盂が拡張する「水腎症(すいじんしょう)」が生じます。閉塞が持続すると腎実質が圧迫されて機能が低下し、急性腎障害(AKI)から不可逆的な腎機能喪失へと進行します。
犬での尿管結石の発生は膀胱結石より頻度が低いですが、両側尿管同時閉塞の場合は尿路閉塞による急性腎不全として生命を脅かします。片側のみの閉塞でも、対側の腎臓に既存の疾患があれば同様の危機的状況となります。
好発犬種としては、ミニチュア・シュナウザー・ヨークシャー・テリア・ラサ・アプソなどのシュウ酸カルシウム結石好発犬種が多く報告されています。中高齢(5歳以上)の雄犬での発生が比較的多い傾向があります。
尿管結石と膀胱結石・腎結石の違い
| 発生部位 | 特徴 | 緊急度 |
|---|---|---|
| 腎結石 | 腎盂内に存在。無症状が多く偶発的に発見されることが多い | 中〜低(閉塞なければ) |
| 尿管結石 | 細い尿管内に嵌頓。閉塞により急速に腎機能低下 | 高(閉塞時は緊急) |
| 膀胱結石 | 膀胱内に存在。頻尿・血尿が主症状。容量があるため閉塞しにくい | 中(尿道閉塞を除く) |
| 尿道結石 | 尿道に嵌頓。尿が全く出ない緊急状態。雄犬に多い | 最高(即時緊急) |
2. 主な症状とサイン:腹痛・元気消失・嘔吐に要注意
尿管結石の症状は、閉塞の程度(完全閉塞か部分閉塞か)・閉塞部位(上部か下部か)・両側か片側かによって大きく異なります。特に急性完全閉塞では数時間〜数日で全身状態が急変します。
主な症状一覧
- 腰背部・腹部の疼痛:腎臓・尿管の拡張による激しい痛みで、背中を丸める・触れられるのを嫌がる・急に動かなくなる行動として現れる
- 元気消失・活動性低下:疼痛と全身状態悪化による無気力・嗜眠(しみん:異常な眠気・無反応)
- 食欲廃絶(拒食):腹痛と腎不全による尿毒素蓄積が食欲を消失させる
- 嘔吐:疼痛反応・尿毒症による消化器症状として現れる
- 頻尿・血尿:尿管粘膜の損傷や膀胱への刺激により生じる
- 尿量の減少・無尿:両側完全閉塞または単腎症の閉塞では尿が全く出なくなる。最も緊急度の高いサイン
- 腹部膨満・腫脹:水腎症が進行した場合に触診で腎臓の拡大が感じられることがある
両側尿管が同時に閉塞した場合、尿が全く産生されない乏尿(にょう)・無尿状態となり、尿毒素が急速に体内に蓄積して意識障害・けいれん・心臓への影響が生じます。この状態は12〜24時間以内の緊急処置が必要です。
閉塞パターンと症状の違い
| 閉塞パターン | 症状の特徴 | 緊急度 |
|---|---|---|
| 片側・部分閉塞 | 無症状〜軽度の腰痛・食欲不振のみ。進行が緩慢 | 中 |
| 片側・完全閉塞 | 急性の腰背部痛・嘔吐・食欲廃絶。対側腎臓に疾患があれば重篤化 | 高 |
| 両側・完全閉塞 | 乏尿〜無尿・急性腎不全・尿毒症症状。意識障害・けいれん | 最高(生命危機) |
3. 尿管結石の原因:結石種類と形成メカニズム
尿管結石の多くは腎臓で形成された結石が尿とともに流れ出て尿管に嵌頓したものです。尿管内で一次的に形成されることはまれです。結石の種類(組成)によって原因・好発犬種・治療法が異なります。
主な結石組成と特徴
| 結石種類 | 好発犬種 | 特徴・溶解可否 |
|---|---|---|
| シュウ酸カルシウム | ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリア、ラサ・アプソ | 最多。食事療法での溶解不可。外科的除去が必要 |
| ストルバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム) | コッカー・スパニエル、ダルメシアン | 細菌感染(ウレアーゼ産生菌)が主因。感染治療と処方食で溶解可能 |
| 尿酸塩 | ダルメシアン、イングリッシュ・ブルドッグ | プリン代謝異常。低プリン食・アロプリノール(尿酸産生抑制薬)で管理 |
| シスチン | ニューファンドランド、ダックスフンド(雄) | シスチン輸送の遺伝的欠陥。低蛋白食・アルカリ化療法 |
シュウ酸カルシウム結石は犬の尿路結石全体の40〜50%を占め、食事療法での溶解が不可能なため治療の主体は外科的除去となります。一方、ストルバイト結石は感染と食事管理の改善で縮小・消失することがあります。
結石形成を促進するリスク因子
- 水分摂取量の不足:尿量が減ると尿中ミネラル濃度が上昇し、結晶化・結石形成が促進される
- 尿路感染症(UTI):ウレアーゼ産生菌(大腸菌・ブドウ球菌等)は尿をアルカリ化してストルバイト結石の形成を促す
- 高カルシウム血症:副甲状腺機能亢進症や過剰なビタミンD摂取でシュウ酸カルシウム結石リスクが増加
- 特定の食事内容:高蛋白食・高プリン食・高シュウ酸食(ほうれん草等の大量摂取)が結石リスクを高める
- 遺伝的素因:品種特有のプリン代謝・シスチン輸送の遺伝的異常
4. 診断と治療法:画像診断から緊急手術・低侵襲治療まで
診断プロセス
尿管結石の診断は画像検査が中心です。症状から尿路疾患を疑い、X線・超音波・CTという順で確認していきます。
| 検査項目 | 目的・所見 | 費用目安 |
|---|---|---|
| 腹部X線検査(単純撮影) | シュウ酸カルシウムなど不透過性結石の確認。尿酸塩・シスチン結石はX線透過性のため写らないことがある | 3,000〜8,000円 |
| 腹部超音波検査 | 水腎症(腎盂拡張)の確認・結石の位置評価。非侵襲的で第一線のスクリーニング検査 | 5,000〜12,000円 |
| 腹部CT検査(造影CT) | 最も精度が高い。全ての組成の結石を検出可能。閉塞部位・腎機能残存度を正確に評価 | 30,000〜60,000円 |
| 血液・生化学検査 | BUN(血中尿素窒素)・クレアチニン上昇で腎機能障害の程度を評価 | 5,000〜10,000円 |
| 尿検査・尿沈渣(にょうちんさ) | 結晶の種類・感染の有無・血尿の確認 | 2,000〜5,000円 |
| 尿培養・薬剤感受性試験 | 感染性結石(ストルバイト)の原因菌特定と適切な抗生剤選択 | 5,000〜10,000円 |
治療の選択肢
治療法は結石の種類・大きさ・閉塞の程度・腎機能の残存度・全身状態によって異なります。
① 緊急処置(閉塞解除)
完全閉塞が確認された場合は腎機能保護のために閉塞を緊急解除します。内科的洗い流し(フラッシング)で尿管に細いカテーテルを通して結石を膀胱側へ押し込む方法が試みられることがありますが、犬では尿管が細く成功率は限定的です。
② 外科的治療(尿管切開術・尿管吻合術)
尿管切開術(ureterotomy:尿管を切開して結石を摘出する)が犬の尿管結石の最も一般的な外科的治療です。術後の尿管狭窄(きょうさく:傷ついた尿管が細くなること)リスクがあるため、術者の経験が予後に大きく影響します。
腎機能がほぼ消失している場合は腎臓ごと摘出する腎尿管摘出術(nephroureterectomy)が選択されることがあります。
③ 低侵襲治療(尿管ステント・SUB装置)
近年では外科的切開を最小限にする低侵襲治療の選択肢が増えています。
| 治療法 | 概要・特徴 | 費用目安 |
|---|---|---|
| 尿管ステント留置 | 尿管内にダブルJステント(両端が丸まった細いチューブ)を留置して尿の流れを確保。閉塞解除に有効だが感染・再閉塞リスクがある | 150,000〜250,000円 |
| SUB装置(皮下尿管バイパス) | 腎臓と膀胱をシリコンチューブで皮下を経由して直接バイパスする。尿管を完全に迂回するため再閉塞リスクが低い。比較的新しい治療法 | 200,000〜350,000円 |
| 体外衝撃波結石破砕術(ESWL) | 体外から衝撃波を当てて結石を細かく砕く。犬では有効性が限定的で日本では普及が限られる | 施設による |
治療法の選択には専門施設(泌尿器科または外科専門病院)への紹介が必要な場合があります。かかりつけ医に専門施設への紹介を積極的に相談してください。
④ 内科的管理(溶解療法)
ストルバイト結石に限り、感染の治療(抗菌薬)と処方食(溶解食)の組み合わせにより2〜4ヶ月で溶解することがあります。ただし尿管閉塞を起こしている場合は閉塞解除が優先であり、内科的溶解を待つことは危険です。シュウ酸カルシウム結石は溶解不可能です。
5. 予防のポイント:水分摂取の促進と定期尿検査が柱
尿管結石の予防は、尿中ミネラル濃度を希釈すること・結石形成を促進する基礎因子を取り除くことが基本です。
- 水分摂取量の増加:尿量を増やして尿中ミネラルを希釈する。ウェットフード(缶詰・パウチ)への切り替え・飲水器の複数設置・流水型給水器の使用が有効。目安として1日の尿量が体重1kgあたり30〜50mL以上を維持する
- 処方食(溶解食・予防食)の継続:シュウ酸カルシウム結石既往犬は低シュウ酸・低カルシウムの処方食、尿酸塩結石既往犬は低プリン処方食を獣医師の指示のもと継続使用する
- 定期的な尿検査(3〜6ヶ月ごと):尿pH・比重・結晶の有無を定期的にモニタリングし、結石形成環境の変化を早期に検出する
- 尿路感染症の早期治療:頻尿・血尿・排尿時の違和感が認められたら速やかに受診し、感染の有無を確認・治療する。感染放置はストルバイト結石形成を促進する
- 好発犬種での早期検査:ミニチュア・シュナウザー・ヨークシャー・テリアなど好発犬種は年1回の腹部超音波検査を積極的に受け、無症状の腎・尿管結石を早期発見する
6. よくある質問(FAQ)
- Q:尿管結石と膀胱結石の違いは何ですか?
- A:最大の違いは閉塞リスクと緊急度です。膀胱は容積が大きいため結石があっても尿路を閉塞しにくく、頻尿・血尿を主症状として比較的緩慢に経過することが多いです。一方、尿管は直径1〜3mmの細い管であり、わずかな結石でも完全閉塞が起き、急速に腎機能が失われます。膀胱結石に比べて緊急度が格段に高い疾患です。超音波検査で水腎症(腎臓の拡大)が認められた場合は、特に迅速な対応が求められます。
- Q:尿管結石を放置するとどうなりますか?
- A:尿管が完全に閉塞した場合、閉塞側の腎機能は閉塞から1〜2週間で回復不能に低下するとされています。片側であれば対側の腎臓が代償しますが、両側同時閉塞または対側腎疾患がある場合は急性腎不全・尿毒症・死亡に至ります。また慢性的な部分閉塞でも時間をかけて腎機能が静かに失われていきます。症状が軽微であっても放置は厳禁です。
- Q:シュウ酸カルシウム結石は食事で溶かせますか?
- A:シュウ酸カルシウム結石は食事療法や薬物療法では溶解できません。外科的除去(尿管切開術・ステント留置・SUB装置等)が必要です。処方食は溶解には使えませんが、再発予防として尿中シュウ酸・カルシウム濃度を下げる効果があるため、術後の再発防止に活用します。ストルバイト結石のみが処方食で溶解可能ですが、閉塞中は溶解を待つことができないため先に閉塞解除が必要です。
- Q:尿管ステントとSUB装置はどちらがよいですか?
- A:いずれも高度な技術と専門設備を要する治療であり、一概にどちらが優れているとはいえません。尿管ステントは体内への残留異物が最小限ですが、石灰化・感染による再閉塞リスクがあります。SUB装置は再閉塞リスクが低い一方、皮下チューブのフラッシュ管理(定期的に洗浄する)が必要です。どちらが適切かは結石の種類・大きさ・腎機能・全身状態・施設の専門性などを総合して担当獣医師が判断します。
- Q:尿管結石の手術後、再発することはありますか?
- A:再発するケースは少なくありません。シュウ酸カルシウム結石では術後5年以内に約50%で再発が報告されています。再発予防には術後の処方食継続・定期尿検査(3〜6ヶ月ごと)・水分摂取量の管理が重要です。術後も尿検査で結晶が検出された場合は再結石の予兆であり、早期に食事内容の見直しを行います。
- Q:水を多く飲ませるためにどうすれば良いですか?
- A:いくつかの方法が有効です。まずウェットフード(缶詰・パウチ)またはドライフードに水を加えて湿らせる方法で水分摂取量を確実に増やせます。複数の給水場所を設置すること、流水型の給水器(循環式ファウンテン)を使用することも飲水量増加に効果があります。また食事後に少量の無塩チキンスープや低塩分のブロスを少量加える方法も一般的です。目標は尿の比重を1.020以下に保つことです。
7. まとめ
犬の尿管結石は尿管の完全閉塞により急性腎不全を引き起こす緊急性の高い疾患で、シュウ酸カルシウム結石が最多を占め外科的治療が必要です。水腎症の早期発見と迅速な閉塞解除が腎機能を守る最短経路であり、術後の処方食継続・定期尿検査・水分摂取管理が再発防止の鍵となります。
異変を感じたら決して放置せず、速やかに動物病院を受診して、愛犬にとって最善の医療的選択を冷静に進めていきましょう。
様子を見ずに、その日のうちに受診してほしいサイン 犬や猫は体調不良を隠す動物です。愛犬に次のどれかが当てはまるときは、この記事の病気に限らず、動物病院に相談してください。
※本記事は医学・科学的知見の一般的知識に基づき作成されています。愛犬の具体的な診断や治療については、必ず動物病院の診察を受けてください。尿管結石の治療には高度な外科的技術と専門設備が必要なため、専門病院への紹介を積極的に検討してください。
参考文献
この記事の内容に関する主な資料です(英語の資料を含みます)。





