犬の膀胱結石をご存知でしょうか。
膀胱の中にミネラル成分が結晶化して石のかたまりができるこの病気は、血尿・頻尿・排尿困難といった症状を引き起こします。結石の種類によって溶解できるものとできないものがあり、適切な診断なしに治療を始めると効果が得られないこともあります。
本記事では、犬が膀胱結石になってしまう原因から、主要な結石の種類・症状・診断と治療法(手術・食事療法)、そして毎日の暮らしでできる予防策までを分かりやすく徹底解説します。
犬の膀胱結石の受診の目安
- すぐに受診夜間・休日でも
- おしっこが出ない、お腹が張っている(当日中に)
- 早めに受診
- 排尿時に痛がる・いきむ(翌日までに)、頻尿・少しの血尿(数日以内に)
- 治療と見通し
- 結石の種類によって療法食で溶かすか手術で取るかが決まる。処方食と水分で再発を防ぐ
迷ったときは 受診の目安とチェックリスト も確認してください。
1. 犬の膀胱結石の概要
膀胱結石(urolithiasis:尿路結石症)は、尿中のミネラル成分が過飽和になり、膀胱内で結晶が成長して固形物(結石)を形成する疾患です。結石は1つから多数まで様々で、大きさもミリ単位から数センチに達するものまであります。
犬でみられる代表的な結石の種類は以下の通りです。
| 結石の種類 | 全体に占める割合 | 特徴・好発条件 |
|---|---|---|
| ストルバイト(リン酸マグネシウムアンモニウム) | 約40〜50% | 尿路感染(特にウレアーゼ産生菌)に伴うアルカリ尿で形成。メスに多い。食事療法・溶解療法が有効 |
| シュウ酸カルシウム | 約30〜40% | 酸性〜中性尿で形成。高カルシウム血症・高齢・特定犬種(ミニチュア・シュナウザー等)に多い。溶解不可、外科的除去が必要 |
| 尿酸塩(尿酸アンモニウム) | 約5〜10% | ダルメシアンなど特定犬種の代謝異常・門脈シャントで形成 |
| シスチン | 約1〜3% | シスチン尿症(腎細管でのシスチン再吸収障害)。オスに多い |
結石の種類の特定は治療方針を決める上で最も重要なステップです。X線・超音波・尿検査の組み合わせで判断し、必要に応じて尿の結晶分析・尿培養・結石成分分析(手術後)を行います。
2. 主な症状とサイン:排尿に関する変化に注意
膀胱結石の症状は結石の大きさ・数・位置・尿路感染の有無によって異なります。小さな結石が複数ある場合に症状が強く出やすく、単一の大きな結石では比較的無症状のこともあります。
- 頻尿・少量ずつ何度もトイレに行く──膀胱粘膜への刺激が原因です
- 血尿(ピンク〜赤色・茶色の尿)──結石が膀胱壁を傷つけることで出血します
- 排尿困難・いきんでも出ない──結石が膀胱頸部・尿道口に詰まっている可能性があります
- 排尿時に痛がる・鳴く──特に尿道への移動時に強い疼痛が生じます
- 陰部を頻繁になめる──違和感・疼痛に対する反応です
- 全く尿が出ない(尿閉)──緊急状態。膀胱破裂・腎不全に至る可能性があります
特に尿が全く出ない状態は6〜12時間以内に命に関わる可能性があります。即日の救急受診が求められます。オスは尿道が長く細いため、結石による尿閉が起きやすいので注意が必要です。
| 症状 | 対応の目安 |
|---|---|
| 頻尿・少量の血尿 | 数日以内に動物病院を受診 |
| 排尿時の痛み・いきみ | 翌日までに受診 |
| 尿が出ない・腹部膨満 | 当日中に緊急受診 |
3. 膀胱結石の原因とリスク因子
膀胱結石の形成には、尿のpH・ミネラル濃度・尿量・感染の有無が複合的に関与します。主な原因とリスク因子は以下の通りです。
- 尿路感染症(ストルバイト結石の主因)──ウレアーゼ(尿素を分解する酵素)を産生する細菌(ブドウ球菌・プロテウス菌など)が尿をアルカリ化し、ストルバイト結石の形成を促します。
- 食事性要因──ミネラル(カルシウム・リン・マグネシウム・シュウ酸)の過剰摂取、タンパク質の多い食事による尿酸増加、低水分食(ドライフードのみ)による尿の濃縮。
- 飲水量の不足──尿量が減ると尿中のミネラル濃度が上昇し、結晶化が起きやすくなります。
- 犬種・遺伝的要因──ミニチュア・シュナウザー(シュウ酸カルシウム)、ダルメシアン(尿酸塩)、イングリッシュ・ブルドッグ・バセットハウンド(シスチン)などに特定結石の好発傾向があります。
- ホルモン異常・代謝疾患──副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症は、シュウ酸カルシウム結石のリスクを高めます。
- 肥満・運動不足──尿量の減少・代謝異常につながります。
4. 膀胱結石の診断と治療法
診断方法
膀胱結石の診断は複数の検査を組み合わせて行います。
- 腹部X線検査──ストルバイト・シュウ酸カルシウムなどX線不透過性結石は単純撮影で確認できます
- 超音波検査──X線で写りにくい結石の検出・膀胱粘膜の評価に有効です
- 尿検査(尿沈渣・pH・比重)──結晶の種類・感染の有無を確認します
- 尿培養・薬剤感受性試験──感染関連結石の起因菌同定と適切な抗菌薬選択に不可欠です
- 血液検査──腎機能・カルシウム代謝・基礎疾患の評価を行います
治療選択肢
①食事療法(溶解療法)
ストルバイト結石・一部の尿酸塩結石は、専用の処方食(尿を酸性化・ミネラル制限した食事)と抗菌薬治療の組み合わせで溶解できます。溶解まで4〜12週間かかります。飲水量を増やすため、ウェットフードの活用・飲み水の増設も有効です。
②外科的除去(膀胱切開術)
シュウ酸カルシウム・シスチン結石など溶解できない結石、尿閉を起こした結石、溶解療法で改善が見られない場合に外科手術を選択します。全身麻酔下で膀胱を切開し結石を摘出します。費用の目安は検査・手術・入院込みで5〜15万円程度です。
③尿道水圧洗浄(ハイドロプロパルジョン)
尿道に詰まった小さな結石を生理食塩水で膀胱に押し戻す処置です。外科手術の前段階として行われることがあります。
手術後は除去した結石を成分分析し、再発予防のための食事管理・定期検査を継続します。再発率は結石の種類によって異なり、シュウ酸カルシウムでは術後2〜3年での再発率が高いとされています。
5. 予防のポイント:十分な飲水と定期的な尿検査が基本
膀胱結石の再発予防には、尿を薄めて結晶化を防ぐことが最も基本的な対策です。
- 飲水量を増やす──ウェットフードの導入・複数個所への水入れの設置・飲み水の定期的な交換で飲水を促します。1日の尿量が増えることで結石の形成リスクが下がります。
- 結石の種類に応じた処方食の継続──治療後も予防用処方食を継続することで再発率を大幅に下げることができます。市販フードへの切り替えは担当医と相談してから行います。
- 定期的な尿検査──結石既往がある犬は3〜6か月ごとの尿検査・超音波検査で再発を早期に発見します。
- 尿路感染症の早期治療──感染関連ストルバイトの場合は、感染の再発を防ぐことが結石予防に直結します。
6. よくある質問(FAQ)
- Q:血尿が出ていますが、結石以外の原因もありますか?
- A:はい。血尿の原因には膀胱結石のほかに、膀胱炎(細菌感染)・膀胱腫瘍・前立腺疾患(オス)・子宮疾患(メス)・凝固障害などがあります。動物病院で尿検査・超音波検査を受けて原因を特定することが大切です。
- Q:食事療法だけで結石を治すことはできますか?
- A:結石の種類によります。ストルバイト結石はウレアーゼ産生菌の感染が原因の場合、処方食と抗菌薬で4〜12週間かけて溶解できます。しかしシュウ酸カルシウム結石は食事療法では溶かせないため、外科的除去が必要です。担当医が結石の種類を確認した上で治療方針を決定します。
- Q:結石の手術後にまた再発しますか?
- A:再発リスクは結石の種類・原因の管理状況によります。シュウ酸カルシウムは再発率が高く、術後2〜3年での再発例も少なくありません。処方食の継続・定期検査・飲水管理によって再発頻度を減らすことが期待できます。
- Q:尿が全く出ないと言われましたが、そんなに緊急ですか?
- A:非常に緊急性が高い状態です。尿閉(尿が全く出ない)が6〜12時間以上続くと、膀胱が破裂するリスクや腎不全への進行が起こりえます。「様子を見よう」は通用しないケースです。すぐに動物病院に連絡してください。
- Q:水をよく飲ませれば結石を予防できますか?
- A:飲水量を増やすことで尿が薄まり、結石の形成リスクを下げる効果があります。ウェットフードの活用・複数の給水ポイントの設置・水の新鮮さの維持が有効な方法です。ただし飲水量だけで全ての結石を防ぐことはできないため、食事内容・定期検査との組み合わせが大切です。
- Q:特定の犬種は結石になりやすいと聞きました。本当ですか?
- A:本当です。ミニチュア・シュナウザー・ビション・フリーゼはシュウ酸カルシウム結石のリスクが高く、ダルメシアンは尿酸塩結石を形成しやすい代謝特性を持っています。好発犬種では若い時期から定期的な尿検査・食事管理を行うことが一般的に勧められます。
7. まとめ
犬の膀胱結石は、頻尿・血尿・排尿困難として現れる泌尿器疾患で、結石の種類によって溶解療法か外科的除去かが決まります。飲水量の確保・結石種類に応じた処方食の継続・定期的な尿検査の組み合わせが再発予防の鍵となります。
異変を感じたら決して放置せず、速やかに動物病院を受診して、愛犬にとって最善の医療的選択を冷静に進めていきましょう。
様子を見ずに、その日のうちに受診してほしいサイン 犬や猫は体調不良を隠す動物です。愛犬に次のどれかが当てはまるときは、この記事の病気に限らず、動物病院に相談してください。
※本記事は医学・科学的知見の一般的知識に基づき作成されています。愛犬の具体的な診断や治療については、必ず動物病院の診察を受けてください。膀胱結石の種類によって治療方法が異なり、誤った食事療法は症状を悪化させる場合があります。
参考文献
この記事の内容に関する主な資料です(英語の資料を含みます)。





