犬の緑内障をご存知でしょうか。
眼圧(目の内側の圧力)が異常に上昇することで視神経が傷害されるこの病気は、急性発作では24〜48時間以内に視力が失われることもあり、緊急対応が必要な眼科疾患の一つです。
本記事では、緑内障の種類・発症メカニズム・飼い主が気づくべき初期サインから、内科的・外科的治療の選択肢、そして眼圧管理の継続方法まで詳しく解説します。
犬の緑内障の受診の目安
- すぐに受診夜間・休日でも
- 目の充血・激しい痛み・目が大きく見える・黒目が濁る(24〜48時間で視力を失うことも)
- 早めに受診
- 目をしょぼしょぼさせる、まぶしがる、目を気にするとき
- 治療と見通し
- 急性発作は数時間単位の治療が視力を守る鍵。点眼で眼圧を管理し、視力が戻らない場合も痛みをとる手術がある
迷ったときは 受診の目安とチェックリスト も確認してください。
1. 犬の緑内障の概要
緑内障は、房水(ぼうすい:眼球内を循環する液体)の産生と排出バランスが崩れ、眼圧が持続的に上昇する疾患です。正常な犬の眼圧は15〜25mmHgですが、緑内障では30mmHg以上に上昇することが多く、重篤例では60mmHg以上になることもあります。
高眼圧は視神経・網膜の血流を阻害して視細胞を死滅させます。視覚の回復は細胞死の進行度によって大きく異なり、急性発作の場合は治療開始までの時間が予後を左右します。
緑内障の分類
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 原発性緑内障 | 排水路(隅角)の先天的な異常によるもの。柴犬・ビーグル・アメリカン・コッカー・スパニエルなどで多く、遺伝的要素が強い |
| 続発性緑内障 | 白内障・ぶどう膜炎・眼内腫瘍・水晶体脱臼などの眼疾患が原因で排水路が閉塞して発症する |
日本では柴犬・豆柴での発症が多く報告されています。中高齢犬(6歳以上)での発症が多いですが、若齢犬でも原発性緑内障は起こり得ます。
2. 主な症状とサイン:目の痛みと視力低下
緑内障の症状は急性型と慢性型で異なります。急性発作の場合は眼の激しい痛みを伴うため、犬の行動変化に気づくことが早期発見の鍵です。
| 症状 | 観察ポイント |
|---|---|
| 眼の充血・赤み | 眼球の白目部分(強膜)の血管が拡張して赤くなる。炎症性疾患との鑑別が必要 |
| 眼球の拡大(牛眼) | 慢性的な高眼圧で眼球が異常に大きくなる。まぶたが閉じにくくなることもある |
| 角膜の混濁 | 眼圧上昇による角膜浮腫で角膜が白く霞んで見える |
| 縮瞳不全・散瞳 | 瞳孔が光に反応しない・いつも広く開いている状態は視神経障害のサイン |
| 眼の痛み | 眼を細める・頭を触られるのを嫌がる・食欲低下・元気消失が見られる |
| 視力低下 | 暗い場所でのぶつかり・物を見失う・歩行がぎこちなくなる |
急性緑内障発作では激しい眼痛のため、犬が突然元気を失い、食事を拒否するケースも見られます。このような急変時には緊急受診が求められます。
3. 発症メカニズムとリスク因子
緑内障の本質的な問題は隅角(ぐうかく:眼球内の房水排出路)の機能低下にあります。房水は常に産生されており、隅角から排出されることで眼圧が一定に保たれています。この排出路が閉塞・機能低下すると眼圧が上昇します。
- 遺伝的素因──原発性では隅角形成異常が先天的に存在する犬種がある
- 白内障の進行──水晶体タンパクが房水中に漏出し炎症・排水障害を引き起こす
- ぶどう膜炎(眼内炎症)──炎症産物が排水路を物理的に塞ぐ
- 水晶体脱臼──水晶体が瞳孔前方に偏位して房水の流れを遮断する
- 眼内腫瘍──腫瘍組織が隅角を圧迫・閉塞する
4. 診断と治療法:眼圧降下と視力保護
診断には眼圧計(トノメーター)による眼圧測定が必須です。30mmHg以上が確認されれば緑内障と判断されます。さらに隅角鏡検査・眼底検査・眼科用超音波検査で原因・進行度を評価します。
内科的治療
眼圧を下げる点眼薬・全身薬を使用します。複数種類を組み合わせることが多いです。
- 炭酸脱水酵素阻害薬(点眼・経口)──房水の産生を抑制します
- プロスタグランジン誘導体(点眼)──房水の排出を促進します
- β遮断薬(点眼)──房水産生を抑制します
- 高張剤(マンニトール静注)──急性発作時の緊急眼圧降下に使用します
外科的治療
内科治療で眼圧コントロールが困難な場合や、視力がまだ残っている段階では手術が選択されます。
- 毛様体光凝固術(レーザー手術)──房水産生部位をレーザーで破壊して産生量を減らします
- シャント手術(人工排水路の設置)──房水を眼外へ排出するデバイスを埋め込みます
- 眼球摘出術──視力が完全に失われた末期例で、疼痛除去を目的に行います
| 治療の段階 | 費用目安 |
|---|---|
| 初診・眼圧測定・点眼処方 | 5,000〜15,000円程度 |
| 内科的管理(継続点眼) | 月5,000〜20,000円程度 |
| レーザー手術 | 80,000〜200,000円程度 |
| 眼球摘出術 | 60,000〜150,000円程度 |
5. 予防のポイント:定期的な眼圧チェックと早期発見
原発性緑内障はある程度遺伝的に決まるため、完全な予防は困難です。しかし早期発見・早期治療で視力を長く維持することは可能です。
- ハイリスク犬種の定期眼科検診──柴犬・ビーグル・コッカーなどは年1回以上の眼圧測定が有効です
- 白内障・ぶどう膜炎の早期治療──続発性緑内障の原因疾患を放置しないことが予防につながります
- 日常の眼の観察──充血・眼球の変化・眼を細める仕草を毎日確認します
- 対側眼の管理──片眼に緑内障が発症した場合、もう一方の眼にも高い確率で発症するため、反対側の予防的点眼薬が処方されることがあります
6. よくある質問(FAQ)
- Q:緑内障になると必ず失明しますか?
- A:急性発作を受診までの時間が早ければ視力を維持できる可能性があります。ただし慢性的な高眼圧が続いた末期例や、発症から長時間が経過した場合は視力の回復が困難です。「眼が赤い・大きい」と気づいた時点での緊急受診が視力保護の最重要ステップです。
- Q:白内障と緑内障は関係がありますか?
- A:関連があります。白内障が進行すると水晶体タンパクが房水中に溶出し、炎症(水晶体起因性ぶどう膜炎)を引き起こします。この炎症が排水路を閉塞して続発性緑内障を引き起こすことがあります。白内障の定期的な経過観察と適切なタイミングでの外科手術が緑内障予防につながります。
- Q:点眼薬を一生続けなければなりませんか?
- A:原発性緑内障の多くでは長期間の継続点眼が必要です。点眼薬で眼圧が安定している場合でも、自己判断で中止すると眼圧が再上昇して視力が急速に低下することがあります。定期的な眼圧モニタリングのもとで、担当獣医師の指示に従って継続してください。
- Q:眼球が大きくなってしまったら手術が必要ですか?
- A:眼球拡大(牛眼)は慢性的な高眼圧の結果であり、この段階ではすでに視力が失われているケースが多いです。疼痛が問題となっている場合は眼球摘出術が選択されます。摘出後は義眼(インプラント)を挿入することで外見を保つことができます。
- Q:片眼が緑内障になったら、もう一方の眼も大丈夫ですか?
- A:原発性緑内障では反対側の眼にも発症するリスクが高いとされています。片眼発症犬の多くで数か月〜数年以内に対側眼にも緑内障が起きることがあります。このため、片眼発症後は対側眼に対する予防的な点眼薬投与と定期的な眼圧測定が行われます。
- Q:緑内障の犬はどのように生活のサポートができますか?
- A:視力が低下・失明した犬でも、嗅覚・聴覚・触覚を使って生活に適応します。家具の配置を変えない・障害物を取り除く・新しい環境には少しずつ慣らすなどの工夫が助けになります。失明しても多くの犬は良好なQOL(生活の質)を維持できます。
7. まとめ
犬の緑内障は、眼圧上昇による視神経・網膜の障害を特徴とする疾患であり、急性発作時には数時間単位での緊急対応が視力維持の鍵となります。眼の充血・眼球の変化・光への反応低下などの早期サインを日常的に観察し、異常を発見したら迅速に眼科診察を受けることが大切です。ハイリスク犬種では定期的な眼圧測定で発症前に対処できる場合があります。
異変を感じたら決して放置せず、速やかに動物病院を受診して、愛犬にとって最善の医療的選択を冷静に進めていきましょう。
様子を見ずに、その日のうちに受診してほしいサイン 犬や猫は体調不良を隠す動物です。愛犬に次のどれかが当てはまるときは、この記事の病気に限らず、動物病院に相談してください。
※本記事は医学・科学的知見の一般的知識に基づき作成されています。愛犬の具体的な診断や治療については、必ず動物病院の診察を受けてください。緑内障は急性発作時に数時間で視力が失われる可能性があり、眼の充血・拡大・光への無反応が見られたら緊急受診をお願いします。
参考文献
この記事の内容に関する主な資料です(英語の資料を含みます)。





