犬のレッグ・ペルテス病をご存知でしょうか。
股関節の大腿骨頭(だいたいこっとう:太ももの骨の先端の丸い部分)への血液供給が途絶えて骨が壊死する非感染性の整形外科疾患です。小型犬の子犬期に多く見られ、進行すると激しい疼痛と歩行困難が生じます。
本記事では、レッグ・ペルテス病の発症メカニズム・なりやすい犬種・症状の進行段階、外科手術(FHO)と術後リハビリの詳細、そして術後の回復見込みまでを分かりやすく解説します。
犬のレッグ・ペルテス病の受診の目安
- 早めに受診
- 成長期の小型犬が後ろ足をかばう・引きずるのが続くとき
- 治療と見通し
- 自然には治らず進行することがほとんど。手術(FHO)とリハビリで多くは歩行機能が回復する
迷ったときは 受診の目安とチェックリスト も確認してください。
1. 犬のレッグ・ペルテス病の概要
レッグ・ペルテス病(Legg-Calvé-Perthes disease)は、大腿骨頭への血流が障害されることで骨の壊死・変形が起きる非炎症性の無菌性骨壊死(AVN:Avascular Necrosis)です。骨頭が変形・崩壊することで股関節に骨同士の摩擦・炎症が生じ、慢性的な疼痛と跛行(はこう:足を引きずる歩き方)を引き起こします。
発症原因は完全には解明されていませんが、遺伝的素因が強く関与していると考えられています。特にトイ・テリア・ヨークシャー・テリア・マルチーズ・プードル・ポメラニアン・チワワなどの小型犬種での発生が多く、生後4〜12か月の発育期に好発します。両側性に発症することもあります。
放置すると関節の破壊が進み、疼痛が慢性化します。適切な外科治療と術後リハビリにより、多くの犬で良好な機能回復が期待できます。
2. 主な症状とサイン:後ろ足の跛行と筋肉萎縮
症状は骨壊死の進行とともに徐々に悪化します。飼い主が最初に気づくことが多いのは「後ろ足を浮かせる・かばう」動作です。
| 進行段階 | 主な症状 |
|---|---|
| 初期 | 歩行時に後ろ足を軽くかばう・跛行が間欠的に見られる。痛みは軽度 |
| 中期 | 跛行が常態化・後ろ足の使用を避ける。患部の股関節を触ると痛がる |
| 末期 | 後ろ足の筋肉萎縮(使わないことで太ももが細くなる)。骨折・脱臼が起きる場合もある。運動を拒否する |
「急に後ろ足を浮かせた」「最近ジャンプをしなくなった」「座るとき片足だけ伸ばす」などの変化が初期サインになります。成長期の小型犬にこれらの変化が見られたら、早めの整形外科的評価が大切です。
3. 発症メカニズムと遺伝的素因
レッグ・ペルテス病の本質的な問題は、大腿骨頭へ栄養を届ける細い血管(回旋動脈の枝)が閉塞・断裂することにあります。血流が失われた骨頭は壊死し、その後に崩壊・吸収・変形が段階的に起きます。
血管閉塞の直接原因は不明ですが、以下の要因が関与すると考えられています。
- 遺伝的素因──小型犬特有の股関節・血管の解剖学的構造が関与すると推測されている
- ホルモン・成長因子の影響──急速な発育期に血管への負荷が増大する可能性がある
- 外傷──軽度の繰り返し外傷が血管損傷を招くとする説もある
遺伝性が強いとされるため、罹患犬の繁殖は避けることが一般的です。親犬に同病歴がある場合はとくに若齢期の定期的な股関節チェックが有効です。
4. 診断と治療法:FHO手術と術後リハビリ
診断はレントゲン(X線)検査で大腿骨頭の変形・骨密度低下・関節裂隙の変化を確認することで行います。初期段階では変化がわかりにくく、経時的な複数回の撮影で確定することもあります。
治療選択肢
| 治療法 | 内容・適応 |
|---|---|
| 内科的管理 | 鎮痛薬・NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)・安静管理。軽度例・手術困難例に用いるが根本的解決にはならない |
| FHO(大腿骨頭・頸部切除術) | 壊死した骨頭・頸部を外科的に除去する手術。筋肉と線維組織が「偽関節」を形成して機能を代替する |
FHO(Femoral Head and Neck Ostectomy:大腿骨頭頸部切除術)は、小型犬のレッグ・ペルテス病に対して最も一般的に行われる治療法です。骨頭を取り除いた後、周囲の筋肉が自然に安定した関節機能を作り上げます。
小型犬では大型犬と比べて術後の筋肉量が比較的多く、機能回復率が高いとされています。術後6〜12か月で多くの犬が良好な歩行機能を取り戻します。
術後リハビリテーション
FHO後の機能回復にはリハビリが不可欠です。以下の段階的なリハビリが推奨されます。
- 術後2週間──安静・傷の管理・疼痛コントロール
- 術後2〜6週──補助歩行(タオルによるサポート)・水中歩行(可能であれば)
- 術後6週〜3か月──自発的な歩行の促進・段差練習・マッサージ
- 術後3〜12か月──通常の歩行・徐々に運動量増加
| 費用項目 | 目安 |
|---|---|
| 診察・レントゲン検査 | 8,000〜20,000円程度 |
| FHO手術(片側) | 80,000〜200,000円程度 |
| 入院・術後管理 | 30,000〜80,000円程度 |
5. 予防のポイント:早期発見と運動管理
遺伝性の強い疾患のため、完全な予防は困難です。しかし以下の取り組みで重症化を防ぐことは可能です。
- ハイリスク犬種の成長期における定期的な股関節チェック──生後4〜12か月の間に異常な歩様がないか定期的に確認します
- 過剰な跳躍・落下の防止──ソファや階段からの飛び降りを繰り返す行動が骨頭への負担になる可能性があります
- 適正体重の維持──過体重は股関節への負荷を増加させます
- 罹患犬の繁殖回避──遺伝性が高いとされるため、発症した犬の繁殖は避けることが一般的です
6. よくある質問(FAQ)
- Q:手術しないと歩けなくなりますか?
- A:病状が進行した場合、内科治療のみでは慢性疼痛と機能低下が続きます。小型犬の多くでFHO手術後に良好な歩行機能を回復しており、手術が長期的なQOL(生活の質)向上に寄与します。担当獣医師と病期・体重・全身状態を踏まえた上で治療方針を相談してください。
- Q:レッグ・ペルテス病は股関節形成不全と同じ病気ですか?
- A:別の疾患です。股関節形成不全は股関節の形態的な発達異常で、大型犬に多く見られます。レッグ・ペルテス病は大腿骨頭への血流障害による骨壊死であり、小型犬・若齢期に多い特徴があります。どちらも跛行・股関節の痛みを起こしますが、原因・治療法・影響を受ける犬種が異なります。
- Q:手術後はどのくらいで歩けるようになりますか?
- A:多くの小型犬では術後4〜8週で患肢の使用を再開し、3〜6か月で通常に近い歩行を取り戻します。積極的なリハビリを行った症例ではより早期の回復が見込まれます。完全な筋肉量回復には6〜12か月かかることもありますが、日常生活の質は大きく改善します。
- Q:両足同時に発症することはありますか?
- A:あります。レッグ・ペルテス病は12〜16%の症例で両側性に発症するとされています。片側の症状が軽快しても、もう一方の股関節にも注意が必要です。定期的なレントゲン評価で早期に両側の変化を捉えることが大切です。
- Q:子犬の頃に跛行が出ました。自然に治ることはありますか?
- A:初期の軽度例では一時的に症状が落ち着くことがありますが、骨頭の壊死・変形は進行することがほとんどです。「しばらく様子を見よう」と放置すると骨頭崩壊が進んで手術がより複雑になる可能性があります。跛行が続く場合は早めに整形外科的評価を受けることをお勧めします。
- Q:手術しない場合の管理方法は?
- A:手術が困難な症例では、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)による疼痛管理・体重管理・低衝撃の運動制限・物理療法(水中歩行・マッサージ)が補助的に用いられます。ただし根本的な骨頭変形の進行を止める効果はなく、長期的に疼痛が残る可能性があります。飼い主と担当医が長期的なQOL目標を共有しながら管理方針を決めることが重要です。
7. まとめ
犬のレッグ・ペルテス病は、大腿骨頭壊死による疼痛と歩行障害を特徴とする小型犬特有の疾患です。FHO手術と術後の段階的なリハビリにより、多くの症例で良好な歩行機能の回復が期待でき、早期発見・早期手術が長期的な予後を改善します。成長期の小型犬における後肢の跛行は見逃さず、速やかな整形外科的評価につなげることが重要です。
異変を感じたら決して放置せず、速やかに動物病院を受診して、愛犬にとって最善の医療的選択を冷静に進めていきましょう。
様子を見ずに、その日のうちに受診してほしいサイン 犬や猫は体調不良を隠す動物です。愛犬に次のどれかが当てはまるときは、この記事の病気に限らず、動物病院に相談してください。
※本記事は医学・科学的知見の一般的知識に基づき作成されています。愛犬の具体的な診断や治療については、必ず動物病院の診察を受けてください。レッグ・ペルテス病は遺伝性が示唆されており、罹患犬の繁殖については担当獣医師にご相談ください。
参考文献
この記事の内容に関する主な資料です(英語の資料を含みます)。





