犬の回虫症をご存知でしょうか。
回虫は犬の消化管に寄生する寄生虫で、とくに子犬では栄養吸収を著しく妨げます。感染していても目立った症状が出にくい時期があるため、便の検査なしには発見が難しい点が特徴です。
本記事では、犬が回虫症になる原因から、腹部膨満・下痢・嘔吐などの主な症状、駆虫薬による治療法、そして毎日の暮らしでできる予防策までを分かりやすく解説します。
犬の回虫症の受診の目安
- 早めに受診
- 子犬を迎えたとき(症状がなくても便検査)、便や吐いたものに白いひも状の虫
- 治療と見通し
- 駆虫薬で治る。1回では残ることがあるため2〜3週後に再投与して便検査で確認する
迷ったときは 受診の目安とチェックリスト も確認してください。
1. 犬の回虫症の概要
犬の回虫症は、犬回虫(Toxocara canis)または犬小回虫(Toxascaris leonina)という線虫が小腸に寄生することで発症する消化管寄生虫症です。犬回虫は世界中で最もよく見られる内部寄生虫のひとつで、日本国内でも幅広く確認されています。
成虫は体長5〜18cmの細長い虫で、小腸内に住み着き、宿主の栄養分を吸収しながら大量の虫卵を産出します。産出された虫卵は便とともに体外に排出され、環境中で感染力を持つ幼虫包蔵卵(L2期幼虫を含む卵)へと成熟します。
成犬では免疫機能が幼虫の移行を抑制するため、症状が軽微なことが多いです。一方、免疫の未熟な子犬や免疫抑制状態の犬では、小腸内で大量の成虫が増殖し、深刻な消化器症状を引き起こします。また犬回虫は人にも感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)の原因寄生虫であり、公衆衛生上も重要な疾患です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 病原体 | 犬回虫(Toxocara canis)・犬小回虫(Toxascaris leonina) |
| 寄生部位 | 小腸(成虫)/肺・肝臓・筋肉(幼虫移行期) |
| 好発年齢 | 特に生後6か月未満の子犬に多い |
| 感染経路 | 経口感染・経胎盤感染・経乳汁感染 |
| 人への感染 | あり(幼虫移行症として眼・内臓に障害を引き起こす可能性) |
2. 主な症状とサイン:腹部膨満から栄養不良まで
犬の回虫症では、感染量や犬の年齢・免疫状態によって症状の重さが大きく異なります。軽度感染ではほぼ無症状のことも多いですが、大量感染時には以下のような症状が現れます。
消化器症状
- 軟便・下痢(水様性から粘液性)
- 嘔吐(嘔吐物に成虫が混じることがある)
- 腹部の張り・腹部膨満(太鼓腹)
- 便に白い糸状・麺状の虫体が混じる
- 食欲不振または異常な食欲亢進
全身症状
- 体重増加不良・発育遅延
- 毛並みの悪化(パサつき・光沢消失)
- 元気消失・活動性の低下
幼虫移行期の症状(主に子犬)
- 咳・くしゃみ(幼虫が肺を通過する際に起こる肺炎症状)
- 鼻水・鼻汁
重篤な場合は大量の成虫が小腸内で絡まり合い、腸閉塞を起こすことがあります。子犬が急激に悪化する場合はこの可能性を考え、速やかな受診が求められます。
| 進行度 | 主な症状 |
|---|---|
| 軽度 | ほぼ無症状・便に虫卵が見つかる程度 |
| 中等度 | 下痢・嘔吐・腹部膨満・毛並み悪化・発育不良 |
| 重度 | 腸閉塞・重篤な栄養障害・腸穿孔(まれ)・死亡リスク |
3. 犬の回虫症の原因と感染経路
犬が回虫症になる主な感染経路は以下の3つです。
- 経口感染(環境からの感染):感染犬の便に含まれる虫卵が環境中に排出され、別の犬が土や汚染物を舐めることで感染します。虫卵は乾燥や低温に強く、土壌中で数年間生存します。
- 経胎盤感染(垂直感染):母犬の体内で休眠中の幼虫が妊娠後期に活性化し、胎盤を通じて胎仔に直接感染します。これは子犬が生まれた時点ですでに感染している主要な経路です。
- 経乳汁感染:母犬が授乳中に乳汁を通じて子犬に幼虫を伝達します。生後2〜3週齢の子犬での感染リスクが高くなります。
また、ネズミや昆虫などの待機宿主(たいきしゅくしゅ)を犬が捕食した場合にも感染します。待機宿主の体内には幼虫が眠っており、犬が食べることで感染が成立します。
感染リスクが高い状況
- 公園や散歩道など他の犬の糞が多い環境への接触
- 感染した母犬から生まれた子犬
- 定期的な便検査・駆虫薬投与を行っていない多頭飼育環境
- 野外で土や糞便を舐める癖のある犬
4. 犬の回虫症の診断と治療法
診断方法
診断の基本は便検査(糞便浮遊法)です。顕微鏡で便を観察し、特徴的な球形〜やや楕円形の虫卵を確認します。虫卵は非常に小さいため肉眼では見えませんが、成虫や幼虫が嘔吐物や便に混じって排出された場合は肉眼でも確認できます。
虫卵の排出は間欠的であるため、1回の検査で陰性でも感染を否定できないことがあります。症状や状況に応じて複数回の検査が有効です。
治療薬(駆虫薬)
回虫症の治療には駆虫薬(くちゅうやく)が用いられます。代表的な薬剤と特徴は以下のとおりです。
| 薬剤名 | 特徴 |
|---|---|
| ピランテル(pamoate) | 虫の神経筋接合部に作用し麻痺させる。安全性が高く子犬にも使いやすい |
| フェンベンダゾール | 幼虫・成虫双方に効果。数日間の連続投与が一般的 |
| ミルベマイシン | フィラリア予防薬との配合剤として広く普及。回虫にも有効 |
| イベルメクチン配合剤 | スポットオン製剤など多剤配合の中に含まれることが多い |
卵・幼虫期には駆虫薬が効きにくい場合があるため、2〜3週間後に再投与することが一般的です。重篤な腸閉塞が起きている場合は外科的処置が必要になることもあります。
費用目安
- 便検査:1,500〜3,000円程度
- 駆虫薬(1回分):1,000〜3,000円程度
- 腸閉塞手術(重篤時):10〜30万円程度
軽症であれば通院1〜2回の駆虫薬投与で改善するケースが多いです。
5. 予防のポイント:定期駆虫と環境衛生
回虫症は適切な管理で予防できる疾患です。以下の3点を徹底することが有効です。
- 定期的な駆虫薬の投与:子犬期は生後2週齢から2〜3週ごとに駆虫、成犬は3〜6か月ごとの定期投与が一般的とされています。フィラリア予防薬との合剤を活用すると管理しやすいです。
- 便の即時処理と環境衛生:感染犬の便は虫卵の感染源になります。散歩中の糞は持ち帰り、庭や室内は定期的に清掃します。虫卵は塩素系消毒剤では死滅しにくいため、熱湯処理や物理的な除去が効果的です。
- 新規導入時の便検査:新しい犬を迎える際は必ず便検査を実施し、感染の有無を確認してから既存の犬と接触させます。特に保護犬や不明な履歴の子犬では感染リスクが高いです。
人への感染(幼虫移行症)を防ぐためにも、犬の糞を触った後は手洗いを徹底し、小さな子どもが土を舐めないよう注意することが大切です。
6. よくある質問(FAQ)
- Q:便に白い細長いものが混じっていましたが、回虫ですか?
- A:白い細長い虫体であれば回虫の可能性があります。ただし、瓜実条虫(ウリザネ条虫)やその他の寄生虫との鑑別が必要です。便とともに動物病院を受診し、虫体または便の顕微鏡検査で確認してもらいましょう。
- Q:成犬でも回虫症になりますか?
- A:なります。成犬では免疫機能が発達しているため症状が軽微なことが多いですが、便検査では虫卵が見つかることがあります。定期的な駆虫薬投与を続けることが大切です。
- Q:回虫症は人間にうつりますか?
- A:うつる可能性があります。犬回虫の幼虫が人の体内に入ると、内臓や眼に移行して「内臓幼虫移行症」「眼幼虫移行症」を引き起こすことがあります。特に小さな子どもが感染した土を舐めるケースが報告されています。犬の定期駆虫と手洗い徹底が予防の鍵です。
- Q:子犬を迎えたばかりですが、すぐに駆虫が必要ですか?
- A:はい、可能な限り早期の便検査と駆虫が望まれます。子犬は経胎盤・経乳汁感染により生まれた時点で感染していることがあります。動物病院で便検査を受け、必要であれば生後2〜3週齢から駆虫薬を開始します。
- Q:駆虫薬を1回投与すれば完全に治りますか?
- A:1回の投与では不十分なことがあります。薬剤は成虫や一部の幼虫には有効ですが、体組織内に潜む幼虫や卵の段階には効きにくい場合があります。このため2〜3週間後に再投与し、便検査で確認することが一般的とされています。
- Q:フィラリア予防薬で回虫も予防できますか?
- A:製品によります。ミルベマイシンオキシムを含む合剤(ミルベマイシン単剤またはネクスガードスペクトラなど)は回虫にも効果を持ちます。使用している予防薬が回虫に対応しているか、かかりつけ医に確認するとよいでしょう。
7. まとめ
犬の回虫症は、適切な駆虫薬の投与と定期的な便検査によって管理できる疾患です。特に子犬期は経胎盤・経乳汁感染により生まれた直後から感染していることがあり、早期の診断と治療が発育障害の予防につながります。散歩先や環境の衛生管理を徹底し、新しい犬を迎える際は必ず便検査を実施することが再感染の防止にも有効です。
異変を感じたら決して放置せず、速やかに動物病院を受診して、愛犬にとって最善の医療的選択を冷静に進めていきましょう。
様子を見ずに、その日のうちに受診してほしいサイン 犬や猫は体調不良を隠す動物です。愛犬に次のどれかが当てはまるときは、この記事の病気に限らず、動物病院に相談してください。
※本記事は医学・科学的知見の一般的知識に基づき作成されています。愛犬の具体的な診断や治療については、必ず動物病院の診察を受けてください。回虫症は人獣共通感染症であり、感染が疑われる場合は公衆衛生上の観点からも早期対応が求められます。
参考文献
この記事の内容に関する主な資料です(英語の資料を含みます)。





