犬の続発性脂漏症をご存知でしょうか。
体がベタベタする・大量のフケが出る・独特の脂っぽい臭いがする——これらの皮膚症状が続くとき、単なる「乾燥肌」や「汚れ」ではなく、アレルギー・ホルモン異常・感染症など別の疾患が引き起こす続発性脂漏症である可能性があります。原因を特定しないままシャンプーだけを繰り返しても根本的な改善には至りません。
本記事では、続発性脂漏症の定義・原因となる基礎疾患・症状・診断・治療・日常ケアまでを詳しく解説します。
犬の続発性脂漏症の受診の目安
- 早めに受診
- フケが大量に出る・皮膚がベタベタする(かゆみがなくても)
- 治療と見通し
- 原因の病気(アレルギー・ホルモンの病気など)を治療すれば大きく改善する。薬用シャンプーで皮膚を管理する
迷ったときは 受診の目安とチェックリスト も確認してください。
1. 犬の続発性脂漏症とは
脂漏症(しろうしょう)とは、皮膚の脂腺(皮脂を分泌する腺)の機能が過剰または不均衡になり、皮膚の表面に脂質が異常に蓄積する状態です。大きく「乾性脂漏症(フケが多くパサつく)」と「油性脂漏症(脂っぽくベタつく)」の2タイプがあり、混在することもあります。
脂漏症は原発性(先天性)と続発性に分類されます。続発性脂漏症は、アレルギー・内分泌疾患・感染症・栄養障害など別の疾患が根本原因となって二次的に皮膚の脂腺機能が乱れるものです。犬の脂漏症の大多数は続発性であり、基礎疾患の治療が症状改善の鍵となります。
原発性と続発性の違い
| 分類 | 原因 | 好発犬種・特徴 |
|---|---|---|
| 原発性 | 遺伝的な皮脂腺の機能異常 | コッカースパニエル・バセットハウンドなど特定犬種。若齢から発症 |
| 続発性 | 基礎疾患(アレルギー・ホルモン・感染など) | 犬種を問わず発症。成犬〜シニアに多い |
2. 主な症状とサイン:こんな皮膚の変化に注意
続発性脂漏症の皮膚症状は多様ですが、以下の変化が代表的なサインです。
皮膚・被毛の変化
- 大量の白色〜黄色のフケが体幹・耳・肘に目立つ(乾性)
- 被毛がベタつき、指で触ると脂っぽい感触がある(油性)
- 皮膚が赤く炎症を起こし、かゆみで体を引っかく
- 耳から脂っぽい茶色の分泌物が出る(脂漏性外耳炎)
- 皮膚にかさぶた・痂皮(かひ)が形成される
- 腋(わき)・股(また)・指間などの皮膚のひだが赤くただれる
臭いの変化
脂漏症に特有の「酸っぱい・古い油のような・むっとした」臭いが体全体・耳・皮膚のしわに生じることが多く、シャンプーしてもすぐに戻るのが特徴です。
二次感染の症状
脂漏症の環境は細菌(ブドウ球菌)やマラセチア(酵母様真菌)の過剰増殖を招きやすく、以下の二次感染症状が重なることが多いです。
- 皮膚の膿疱(うみの出る発疹)・湿疹
- 黒ずみ(色素沈着)・苔癬化(皮膚が厚く硬くなる)
- 激しいかゆみ・自傷による脱毛
3. 続発性脂漏症の原因:基礎疾患を探す
続発性脂漏症は単独の疾患ではなく、様々な基礎疾患の「皮膚への表れ」です。以下の疾患が主な原因として知られています。
主な基礎疾患
- アレルギー性皮膚炎:環境アレルゲン(ハウスダスト・花粉)や食物アレルゲンへの過敏反応が皮膚バリア機能を破壊し、脂腺機能の乱れを引き起こします。犬の続発性脂漏症の最多原因です。
- 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンの低下は皮膚細胞のターンオーバーを遅延させ、角化異常と脂腺機能不全をもたらします。中高齢の大型犬に多い原因です。
- クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症):コルチゾール過剰が皮膚の薄化・脂腺分泌増加・二次感染への脆弱性を生じさせます。
- マラセチア性皮膚炎:マラセチア(酵母様真菌)の過剰増殖が脂腺分泌を促進し、独特の臭いと脂漏性変化を引き起こします。脂漏症と相互に悪化し合う関係です。
- 外部寄生虫(疥癬・ニキビダニ症):皮膚への直接的なダメージと免疫反応が皮脂バランスを崩します。
- 栄養障害・必須脂肪酸欠乏:オメガ3・オメガ6脂肪酸の不足は皮膚バリア機能と脂腺機能に影響します。
好発犬種(続発性)
続発性脂漏症はあらゆる犬種で見られますが、基礎疾患(アレルギー・甲状腺疾患)の好発犬種と重なります。
- ゴールデンレトリーバー・ラブラドールレトリーバー(アレルギー)
- シェットランドシープドッグ・ドーベルマン(甲状腺機能低下症)
- ウエストハイランド・ホワイトテリア・シーズー(マラセチア性皮膚炎)
4. 診断・治療法と費用目安
診断の流れ
続発性脂漏症の診断では、皮膚症状の評価と同時に基礎疾患の特定が最重要です。
- 皮膚検査:皮膚スクレープ(寄生虫検出)・テープ圧着検査(マラセチア・細菌確認)・真菌培養を実施します
- 血液検査・ホルモン検査:甲状腺ホルモン(T4)・副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を測定し内分泌疾患を評価します
- アレルギー検査:食物除去試験・血清アレルギー検査でアレルギー性皮膚炎を評価します
- 皮膚生検:重度または原因不明の場合、皮膚組織の病理学的評価を行います
治療の方針
治療の柱は「基礎疾患の治療」と「皮膚症状の管理」の2本立てです。
基礎疾患の治療
- 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモン補充薬(レボチロキシン)の投与で症状が著明に改善します
- クッシング症候群:トリロスタン等の内服薬または外科的治療を行います
- アレルギー性皮膚炎:アレルゲン回避・食事療法・免疫療法・アポキル等の薬物療法を組み合わせます
- マラセチア・細菌感染:抗真菌薬・抗生物質の内服または外用で治療します
皮膚症状の管理(薬用シャンプー療法)
脂漏症の皮膚管理には薬用シャンプーが中心的な役割を果たします。週1〜2回を目安に、脂漏症のタイプに合った成分のシャンプーを使用します。
| タイプ | 推奨成分 |
|---|---|
| 油性脂漏症 | 硫化セレン・タールベンゾイル・サリチル酸・硫黄 |
| 乾性脂漏症 | 保湿成分(セラミド・オメガ脂肪酸)・角化調整成分 |
| マラセチア合併 | ミコナゾール・クロルヘキシジン配合シャンプー |
費用目安
| 診療内容 | 概算費用(目安) |
|---|---|
| 皮膚検査(スクレープ・テープ) | 3,000〜8,000円 |
| ホルモン検査(甲状腺・副腎) | 5,000〜15,000円 |
| 薬用シャンプー(月間) | 2,000〜5,000円 |
| 内分泌疾患の内服治療(月間) | 3,000〜10,000円以上 |
5. 予防のポイント:皮膚バリアと基礎疾患管理
続発性脂漏症の予防は、基礎疾患の早期発見・早期治療と皮膚バリア機能の維持が中心となります。
- 定期的な皮膚チェック:月1回程度、全身の皮膚・被毛・耳を観察し、フケ・臭い・赤みの変化を早期に把握します
- 適切な食事管理:オメガ3・オメガ6脂肪酸を含むバランスの良い食事は皮膚バリア機能を支えます。フードの品質と量の管理を継続します
- 定期的なシャンプーと乾燥:清潔を保つとともに、過度な入浴による皮脂の除去も避けます。シャンプー後は皮膚を十分乾燥させます
- 内分泌疾患・アレルギーの定期管理:既知の基礎疾患がある場合は治療を継続し、定期的に血液検査で状態を確認します
- 環境アレルゲンの低減:ハウスダスト・カビ・花粉などのアレルゲンを室内でできる限り減らすことが皮膚への負荷を軽減します
6. よくある質問(FAQ)
- Q:シャンプーを頻繁にしていますが、臭いとベタつきが改善しません。なぜですか?
- A:続発性脂漏症の場合、原因となる基礎疾患(アレルギー・甲状腺機能低下症・マラセチア感染など)が未治療のままでは、シャンプーだけでは根本的な改善になりません。動物病院で基礎疾患の検索・治療を行うことが先決です。
- Q:フケが多いですが、かゆみはありません。病院に行くべきですか?
- A:かゆみがなくても脂漏症が進行していることがあります。フケが大量に出る状態はすでに皮膚バリア機能が乱れているサインです。基礎疾患の有無を確認するためにも早めに受診してください。
- Q:マラセチア皮膚炎と脂漏症はどちらが先に起きるのですか?
- A:どちらが先とは一概に言えず、相互に悪化し合う関係です。脂漏症の環境がマラセチアの増殖を促し、マラセチアの代謝産物がさらに皮脂分泌を亢進させます。両方を同時に治療することが重要です。
- Q:食事を変えると皮膚が改善することはありますか?
- A:食物アレルギーが基礎疾患の場合、食事療法(除去食試験)で皮膚症状が著明に改善することがあります。また、オメガ3脂肪酸の補給が皮膚バリア改善に有効という報告もあります。ただし原因の確認なしに勝手に食事を変えると診断が難しくなるため、獣医師に相談してから変更してください。
- Q:原発性脂漏症と診断されました。完治しますか?
- A:原発性脂漏症(遺伝性)は根治が難しく、長期的な皮膚管理が必要です。定期的な薬用シャンプーと必要に応じた内服薬でQOL(生活の質)を維持することが治療の目標となります。一方で基礎疾患による続発性脂漏症は、原因疾患を治療することで大幅な改善が期待できます。
- Q:耳の臭いが強くて脂っぽい分泌物が出ます。歯周病との関係はありますか?
- A:耳の脂っぽい分泌物は脂漏性外耳炎の典型症状です。歯周病とは直接の関連はありませんが、どちらも全身の健康状態・免疫機能・体質が関与します。耳の症状は外耳炎として独立した治療が必要なため、耳専用の検査と処置を動物病院で受けてください。
7. まとめ
犬の続発性脂漏症はアレルギー・内分泌疾患・感染症などの基礎疾患が根本原因となる皮膚疾患で、原因疾患の治療と薬用シャンプーによる皮膚管理を組み合わせることで症状コントロールが可能です。定期的な皮膚チェックと基礎疾患の早期発見が、慢性化を防ぐ最も確実な手段となります。
異変を感じたら決して放置せず、速やかに動物病院を受診して、愛犬にとって最善の医療的選択を冷静に進めていきましょう。
様子を見ずに、その日のうちに受診してほしいサイン 犬や猫は体調不良を隠す動物です。愛犬に次のどれかが当てはまるときは、この記事の病気に限らず、動物病院に相談してください。
※本記事は医学・科学的知見の一般的知識に基づき作成されています。愛犬の具体的な診断や治療については、必ず動物病院の診察を受けてください。脂漏症の治療は基礎疾患の特定が前提となるため、自己判断でのシャンプーや食事変更は診断を難しくする場合があります。
参考文献
この記事の内容に関する主な資料です(英語の資料を含みます)。





