愛犬がトイレに何度も行くのに尿が出ない、または血が混じった尿をしている──そのサインは尿道結石(にょうどうけっせき)の可能性があります。
尿道結石は排尿路を物理的に塞ぐため、放置すれば腎不全や膀胱破裂を招く緊急疾患です。本記事では原因・症状・治療・予防を詳しく解説します。
犬の尿道結石の受診の目安
- すぐに受診夜間・休日でも
- おしっこがまったく出ない、何度も踏ん張るのに出ない(完全閉塞は24時間以内に腎臓が傷む)
- 早めに受診
- おしっこが細い・ポタポタ漏れる、血尿があるとき
- 治療と見通し
- まず詰まりを解除し、その後に手術や療法食で治療する。再発しやすいため処方食と定期検査を続ける
迷ったときは 受診の目安とチェックリスト も確認してください。
1. 犬の尿道結石とはどのような病気か
尿道結石とは、腎臓や膀胱で形成されたミネラル結晶が尿道内に移動・停留し、尿の流れを部分的または完全に遮断する疾患です。
膀胱結石(ぼうこうけっせき)が母石となり、排尿時に尿道へ流れ出て詰まることが多く、オス犬では陰茎骨(いんけいこつ)の後方や陰茎部先端で閉塞しやすいという解剖学的特徴があります。
完全閉塞になると膀胱が破裂したり、尿毒症(にょうどくしょう)が急速に進行したりするため、24〜48時間以内の処置が求められる重篤な状態です。
主な結石の種類と特徴
| 結石の種類 | 特徴・好発犬種 |
|---|---|
| ストルバイト | リン酸アンモニウムマグネシウムが主成分。細菌感染と関連。メス犬に多い |
| シュウ酸カルシウム | 硬質で溶解困難。ミニチュア・シュナウザー・ヨークシャー・テリアに好発 |
| 尿酸塩 | プリン体代謝異常と関連。ダルメシアンや門脈シャントのある犬に多い |
| シスチン | アミノ酸代謝異常による遺伝性結石。ダックスフンドに好発 |
2. 主な症状とサイン:排尿困難・血尿・腹部の張り
尿道結石の症状は閉塞の程度によって大きく異なります。部分閉塞と完全閉塞では緊急度が異なるため、症状の変化を見逃さないことが重要です。
飼い主が気づきやすい初期サイン
- トイレに何度も行くが尿が出ない、またはポタポタとしか出ない
- 排尿時に鳴いたり、身をよじったりして痛みを示す
- 尿が赤い・ピンク色をしている(血尿)
- 陰部を頻繁に舐める
- 排尿の姿勢を長時間続ける
完全閉塞で現れる緊急症状
- まったく排尿できない状態が数時間以上続く
- 腹部が膨らんでいる・触ると嫌がる
- 嘔吐・食欲廃絶・ぐったりして動かない
- 歯茎が白っぽくなる(ショック状態)
完全閉塞は発症から12〜24時間で腎機能が不可逆的に障害されるため、排尿ゼロが確認された時点で緊急受診が必要です。
3. 尿道結石の原因とリスク因子
尿道結石は単一の原因ではなく、複数の要因が重なって発症します。飼い主が管理できる要因を把握することが予防の第一歩です。
食事・飲水
水分摂取量が少ないと尿が濃縮されてミネラルが析出しやすくなります。ドライフードだけでは水分が不足しがちで、尿pH(酸性・アルカリ性のバランス)が偏ることも結石形成を促します。
細菌性尿路感染症(UTI)
ウレアーゼ(尿素分解酵素)を産生する細菌が増殖すると尿がアルカリ化し、ストルバイト結石が形成されやすくなります。メス犬は尿道が短く感染を起こしやすいため注意が必要です。
遺伝・犬種素因
ミニチュア・シュナウザーはシュウ酸カルシウム結石、ダルメシアンは尿酸塩結石の遺伝的素因を持ちます。好発犬種では若齢から予防的な食事管理が推奨されます。
ホルモンバランスと性別
去勢していないオス犬は前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)が尿道を狭め、結石の詰まりやすさが高まります。メス犬はストルバイト結石が多く、オス犬は尿道の構造上、閉塞リスクがより高い傾向があります。
その他のリスク因子
- 運動不足・肥満(尿排泄機会の低下)
- 免疫抑制状態や慢性疾患の合併
- 過去に膀胱結石・尿路結石の既往歴がある
4. 診断と治療法:内科的アプローチから外科手術まで
尿道結石の治療は、閉塞の有無・結石の種類・部位・犬の全身状態によって選択肢が変わります。まず緊急処置で閉塞を解除し、その後根本的な治療を行う二段階の流れが基本です。
診断プロセス
- 腹部X線・超音波検査:結石の位置・数・大きさを特定する基本検査
- 尿検査・尿培養:結石の種類推定と細菌感染の有無を確認
- 血液検査:腎機能(BUN・クレアチニン)、電解質異常の評価
- 結石分析:手術で摘出した結石の成分を同定し、再発予防に活用
緊急処置:閉塞の解除
尿が出ない状態では、まず尿道カテーテルによる逆行性フラッシング(尿道を生理食塩水で洗い流す処置)で結石を膀胱内に押し戻します。成功すれば即座に排尿が再開されます。
カテーテル操作が困難な場合は、膀胱穿刺(ぼうこうせんし:お腹から針を刺して尿を抜く処置)で一時的に膀胱内圧を下げます。
内科的治療(溶解療法)
ストルバイト結石は専用の処方食や抗菌薬投与で溶解できる場合があります。ただし溶解には数週間〜数か月かかるため、閉塞がない場合に限られます。シュウ酸カルシウムや尿酸塩結石は食事療法では溶解しません。
外科的治療
カテーテル処置で解除できない場合や、再発を繰り返すオス犬には外科手術が選択されます。
- 膀胱切開術(シストトミー):膀胱内の結石を直接摘出する最も一般的な手術
- 尿道切開術:尿道内に嵌頓した結石を直接取り除く
- 会陰部尿道造口術(PU手術):再発を繰り返すオス犬の尿道を拡大して閉塞しにくくする根治的手術
治療費の目安
| 処置内容 | 費用の目安(税込) |
|---|---|
| 初診・検査(X線・超音波・尿検査) | 1〜3万円 |
| カテーテル処置・入院 | 3〜8万円 |
| 膀胱切開術(全身麻酔含む) | 10〜20万円 |
| PU手術(再発予防) | 15〜30万円 |
費用は動物病院や地域によって異なります。ペット保険への加入が、高額治療時の経済的負担を軽減する手段となります。
5. 予防のポイント:水分・食事・定期検査が鍵
尿道結石の最大の予防策は、尿の希釈と結石を形成しにくい尿環境の維持です。以下のポイントを日常的に実践することで再発リスクを大幅に低減できます。
十分な水分摂取の確保
1日の飲水量の目安は体重1kgあたり50〜60mlです。ウェットフードの併用、ぬるま湯のトッピング、流水タイプの給水器の使用が飲水量増加に有効です。
結石の種類に応じた食事管理
ストルバイト結石にはマグネシウム・リンを制限した処方食が、シュウ酸カルシウム結石にはカルシウム・シュウ酸塩を制限した食事が推奨されます。市販の一般フードでは対応が不十分な場合があるため、獣医師の指導のもと処方食を選択することが重要です。
定期的な尿検査と画像検査
結石既往歴のある犬は3〜6か月ごとの尿検査と年1〜2回の超音波検査が推奨されます。無症状でも新たな結石形成を早期に発見できます。
尿路感染症の早期治療
ストルバイト結石の多くは細菌感染が引き金になります。頻尿・血尿などの症状が現れたら、早めに尿検査と抗菌薬治療を行うことが結石の二次形成を防ぎます。
適切な体重管理と運動
肥満は尿の濃縮・排泄頻度の低下・免疫低下と関連します。適度な散歩で排尿機会を増やし、体重を適正範囲に維持することも予防に貢献します。
6. よくある質問(FAQ)
- Q:尿道結石と膀胱結石はどう違うのですか?
- A:膀胱結石は膀胱内に存在する結石で、尿道結石は尿道内に詰まった状態を指します。多くの場合、膀胱で形成された結石が排尿時に尿道へ流れ込んで閉塞を引き起こします。膀胱結石は症状が軽いことがありますが、尿道結石は閉塞に直結するため緊急度が高くなります。
- Q:オス犬とメス犬で症状に違いはありますか?
- A:はい、大きな違いがあります。オス犬は尿道が細く長いため、結石が詰まりやすく完全閉塞になりやすいです。メス犬は尿道が短く太いため閉塞しにくい一方、感染によるストルバイト結石が形成されやすい傾向があります。オス犬では特に排尿ゼロが見られたら即受診が必要です。
- Q:水をたくさん飲ませれば結石は溶けますか?
- A:水分摂取の増加は尿を希釈して結石の成長を抑制する効果がありますが、既に形成された結石(特にシュウ酸カルシウム)は水だけでは溶解しません。ストルバイト結石は処方食と水分管理の組み合わせで溶解が期待できますが、種類の同定なしに自己判断で溶解療法を試みることは危険です。
- Q:手術後に再発することはありますか?
- A:結石の種類・根本原因の管理状況によりますが、再発率は高く、シュウ酸カルシウム結石では術後2年以内に30〜50%が再発するとされています。術後の処方食継続、定期的な尿検査・画像検査、十分な水分摂取の維持が再発予防の中核となります。
- Q:市販の尿路ケアフードは予防に効果がありますか?
- A:市販のユリナリーケアフードはミネラルバランスを調整して尿路環境を整える効果が期待できますが、結石の種類によって必要な制限成分が異なります。たとえばストルバイト向けの食事がシュウ酸カルシウムの予防に適さない場合もあります。かかりつけ医で結石の種類を確認した上で食事を選択することが重要です。
- Q:自宅でできる早期発見の方法はありますか?
- A:排尿の様子を毎日観察することが最も重要です。排尿回数の増加、1回の排尿量の減少、血尿(尿が赤やピンク色)、排尿時の鳴き声・いきみが早期発見のサインです。シートトイレを使っている場合は尿の色・量・回数を確認する習慣をつけることが有効です。
7. まとめ
犬の尿道結石は排尿路を閉塞する緊急疾患であり、完全閉塞では24時間以内に腎機能が不可逆的に障害されるリスクがある。処方食・水分管理・定期検査による再発予防と、排尿異常を見逃さない日常観察が長期的な健康を支える。
異変を感じたら決して放置せず、速やかに動物病院を受診して、愛犬にとって最善の医療的選択を冷静に進めていきましょう。
様子を見ずに、その日のうちに受診してほしいサイン 犬や猫は体調不良を隠す動物です。愛犬に次のどれかが当てはまるときは、この記事の病気に限らず、動物病院に相談してください。
※本記事は医学・科学的知見の一般的知識に基づき作成されています。愛犬の具体的な診断や治療については、必ず動物病院の診察を受けてください。尿道結石は種類によって治療方針が異なるため、自己判断による食事変更は避け、必ず獣医師の指示に従ってください。
参考文献
この記事の内容に関する主な資料です(英語の資料を含みます)。





